「石和の夏」

                                土建屋寅次郎

 “甲州は御坂のふもと、いななく綿の段々畑、山が在所は竹居村、

           竹居のドモ安 鬼より恐い、ドドとどもれば人を斬る“

その昔、連続ラジオドラマで、このイントロがながれて始まる、甲州侠客伝の放送に聞き

惚れた時代があった。やくざに憧れた訳ではないが、何故かこれを覚えてしまっていた。

昨年の夏、全国シニアソフトボール石和大会に参加して、突如 鮮やかに思い出した。

その御坂の隣町が石和なのである。昔は甲州やくざが、そこいらを元気良く飛び回って

いたのであろうか? 

今の石和はご存じの通り「ワインと温泉のまち」で売り出している。

昨今 その集客にかげりが見えだし、街を活性化しようとの事で、温泉旅館組合と町体育

協会がタイアップし、全国のシニアソフトボールチームに呼びかけ、昨年その第1回大会

を開催し、白鳥も2泊3日で参加をしたわけです。全国より80チーム、約1500人位

の人が集まり、熱戦を展開しました。白鳥は強豪静岡、地元山梨、東北岩手を破り3勝。

隣のゾーンから勝ちあがってきた東京に勝てばベスト10と言うところであったが、逆転負

けを喫し、11位〜20位の中に収まった。

予想外の大健闘でありました。

しかし 今年はその11位〜20位のチーム同士の激突と言う組み合わせで、当初から苦戦

は覚悟の上での戦いとなりました。

戦う前日に、昨年 戦勝祈願をした武田神社におもむき、昨年のお礼と今年もよろしくと

願掛けをし、気合いを入れて、昨年と同じ宿に草鞋を脱ぎました。

この宿の近辺は飲み屋有り、ストリップ劇場有りと、我々スポーツ選手と致しましては、

極めて環境の悪いところで御座いまして、今年は何とか宿変えをと、言い出す者は誰一人と

しておりませんで、情けないと思いつつも、今年も又大変楽しい夜で御座いました。

夜の部の詳細は筆舌に尽くしがたく、喋りたいけど喋れない男の世界。割愛します。

さて昼の部。

初戦は埼玉県。先頭バッターは寅。粘って四球。先頭が出ると勝ちパターン。

二番打者早川。すかさず監督が動く、初球をバントのサイン。

投手前に絶妙に転がした。一塁ランナー寅、猛然とスタート、二塁ベース直前で三塁手を見

たら前進したままだ、遊撃手は二塁方向に動いている、しめた!と二塁を蹴り、三塁へ滑り

込んでセーフ!

試合直前にミーテングした通りの作戦がピッタリと当たった。

一瞬 鳥肌が立つ位の気分であった。すかさず次打者の緩いサードゴロで生還。

ノーヒットで鮮やかな先制点!これが総ての面に効いたと思う。

以後は全員がのびのびと積極的に走り相手を攪乱、ホームランも2本出た。

後半に打たれたモノの9;6でまずは快勝!

勝てば夜の部が盛り上がるのは、世の習い。万有引力の法則以上の大法則。

しかし ここが田舎チームの悲しいところ。

強い都会のチームは早く寝て、全部勝ってから、力一杯 夜の部に入るのが大々法則らしい。

俺もそう思うけど、この場合 思うだけの方が楽そうだし、新米の寅と致しましては、

生まれつき気が弱いので、せんだいな口出しは慎み、ただひたすら黙って飲むだけの方を

選択し、ほんの少しだけ戴きまして、眠りに就いた・・・等というウソは申しません。

次なる行動に移った次第で御座います?

大会二日目は軽い二日酔い?その上天気がよすぎる。

スパイクが焼けるように熱く、痛いくらいだ。

すぐに脱水症状になる。この暑さの中で

60過ぎの者が元気で走り回っている。倒れる者など皆無で、どのチームを見ても実に良く

鍛えられていると言う印象が強烈だ。仕事ならこれ程に動くだろうか?

8時半試合開始。相手は愛知県の豊橋。昨日あまりにも鮮やかに、しかも楽に勝ったのが

悪い方に作用した。多少の驕りが内面にあったのは事実だったと思う。

目も覚めやらず、寝ぼけている内に、気が付けば負けていた、と言うのが実状なり。

ヒットは 寅が1本打ったのみの完封負け。言い訳する材料もない。いや山ほどある。

第三試合。相手は静岡の沼津。

第二試合の完封負けのショックが尾を引いたのか、先頭打者の寅、サードゴロ。

幸先が悪い。案の定点が入らない。打線は完全沈黙。黙秘権行使!相手投手はそんなに

すごいとは思わない。岐阜クラブ級で決して打てない投手ではない。なのに打たない。

相手に呑まれている感じ。ミスを恐れている感じ。ミスをすると酒の肴にされる感じ。

いんにゃ体が動かない感じ。

勝てる感じが湧いてこない感じ。負ける感じで負けた感じ。

ここも貧打。ヒットは早川と寅の2本のみ。内容は豊橋と同じパターンで負けている。

見事に2試合とも完敗。

夜カンパイのやりすぎでの完敗。言う事ナシ。いや言う事一杯。

今秋、大阪でのネンリンピックが最大目標であるが、今回のこの成績では何とも心許ない。

課題は山積している。むしろ増えてきている。厳しく反省をして、基本から出直す要有り

あるコーチがいみじくも言っていたのを思い出す。

「形だけの反省会ならやらない方が良い。お互いを傷つけあうだけだから。

しかし それでは進歩がない。相手を名指しで反省を促しても、それを謙虚に受け止める

心の大きさ。これがスポーツマンと言える人だ。そしてチームプレーのできる人であり、

かつ又進歩する人だ」と。

議論はすべきである。そしてその結果、出てきた結論には無条件で従うべきだ。

過日の”千葉すず”の様に。さわやかである。

スポーツマンであれ!しかし時々は「しゅ(酒)ぽーつまん」でも良いと寅は思う。

されど、大阪に向かって、いい加減にやっていたって、そこには「感動」等あり得ない。

「感動」のないものなら、涼しい白鳥でヘソ空にして、寝ていた方が良い。

夏の石和もいろいろな話題を残して終わった。参加できたことを幸せに思う。

全国各地の同じ年代の多くの人達が、同じ思いで、汗しているんだなーと強く感じると共に、

こうして試合の出来ることの一日も永からん事を祈り、自分に言い聞かせた。

「楽しみながら勝つこと」それにはきちんとした練習だ。

ゴルフの尾崎が53歳で若者をねじ伏せた。

オーバーアクションの尾崎を寅は、あまり好きではなかったが、あのアクションの陰に、

人知れずの練習があったと聞く。

この度の優勝には脱帽して敬意を表するし、お互いに頑張ろう!シニァ&シルバー!

この度の遠征では、出発直前に近所の訃報、友人ご子息の結婚式、応援する代議士との

ゴルフコンペ、更に仕事を1日半さぼり、計四件の不義理をしてしまい、気が重かった。

しかし石和への義理は果たした。

甲州の侠客、竹居のドモ安親分はこの事を、誉めてくれるか?はたまた叱りつけてくるか?

寅にとって、夏の大きなイベントの一つが終わった。

今年は少しほろ苦かった。

                 H12/8/8 (ほら吹き寅の寝言集より)

 

 

 

「寅の反省点」

 技術的に

* 体を充分にほぐし、試合に入る。

  練習に入る前のストレッチングを入念に。

  ダッシュを繰り返すことが大切ではないだろうか。

   足が遅いのではない、スピードに乗るまでが遅いのでは?

* ベースランニング

  オレンジベースの意味。

   駆け抜けるときと、二塁へ伺うときの走塁方法。膨らみと踏むベース。

  スライデングは必要。

   直前でスピードダウン&オーバーラン。フックスライデング。

  暴走塁と好走塁は紙一重。

   次の塁の先の塁を絶えず視野に入れながら・・・コーチを視る。

   四球で三盗した早川の集中力。

* 守備

  次のプレーを頭に描いておく。

  送りバントはセカンドで楽に殺された。殺せると言う事です。

* 打撃

  バットを短く持ってセンター返し。

  スピードボールには軽いバット。内野オーバーで充分。

  ボックスの最先端に行く度胸。後ろは負け意識?

  打撃練習の時から、ボール球を振らない練習。

  初球から行け!というのは何でも振って行けとは違う。

  自分の好きな所か、あるいは球筋を読んでヤマを張る事ではないのか?

 精神的に

* 声を出して自分に気合いを入れる。

   気力が出ないとすべて消極的になる。球よ俺の所へ来ないでくれ?となる。

   ミスをしない事ばかり考える。積極的に次のプレーが描けない。

   ボックに入っても迷ってばかりいる。

   ミスを怖がるからミスが出る。人間はミスをする者だと開き直ろうよ。

* 否定する言葉、否定する気持ちは,止めようよ!

しゃなこと言っても出来ない、だしかん、難しい、疲れた、等々。

物事はその言葉の方向に向くらしい。

* 相手を褒める余裕。

   沼津戦でヒットで出塁したとき、1塁側相手ベンチから、背番号16ナイスヒット!

と声をかけられて驚いた。手を挙げて答えたら笑って拍手してくれた。

悔しいけれど勝てないと思った。余裕が欲しい、どんな時でも。

* 円陣がバラバラ。最後に気合いをかけよう!

  試合後の相手に対するエール。恥ずかしくて出来ない?

だらだらと引き上げて行く方が余程恥ずかしい。